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2009年10月

2009年10月23日 (金)

「元彼との思い出の喫茶店」をちょっと見てきた

押忍!

今月のテーマは「『ちょっと見てきて』を見てくる」です。すっかりおなじみになったこのコーナー。どこを見てこようかしらんと一覧を眺めていると、お、高円寺の案件があるではないか。しかも、甘酸っぱいドラマ性が見え隠れしている。さっそく、見てきた。

 

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奥の段ボールタワーはこの後崩れ落ちました


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元彼との思い出の場所


下は「ちょっと見てきて」のトップ画面。たとえば、「小学生の頃によく行っていた駄菓子屋が今どうなっているか気になる」という投稿に「まだありました!」と写真付きの回答が届く。

無償の愛である。すばらしい。

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いわば、思い出の互助会

ところで、どうせ見に行くなら、まだ回答が付かないものにしたい。「なかなか見てきてくれない」で検索すると、意外にも自分の住む街にこんな投稿があった。

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あ、高円寺

「20年ほど前にお付き合いしていた彼のお母様がやっていた喫茶店です。現在その彼が飲み屋を継いでいる噂を聞いたので、どなたか見てきていただけたらうれしいです」(ロコちゃん さん)

投稿日は2009年5月24日。近くに住んでいる人も多いはずなのに、なぜか5カ月経った今もレスポンスがない。

「元彼」「思い出」「喫茶店」。短いセンテンスに胸を揺さぶるワードが散りばめられている。よし、ここにしよう。


商店街の突きあたりにその店はあった

しかし、20年前ということは投稿者はすでに40代ぐらいか。なんで別れたんだろう。喫茶店では何を注文していたのかな。様々な妄想を膨らませつつ、南口商店街を歩く。

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地図によればこの先の左側に…

駅から歩くこと10分。商店街が途切れる手前に、その店はあった。

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奥の台車に注目

ふと前を見ると、段ボール箱を台車に乗せて運ぼうとしているスーツ姿の男性が。タワーが高すぎて不安定なことこの上ない。

この写真を撮った1秒後、段ボールタワーは派手に崩れ落ちる。積み直すのを手伝ってあげた。

取材依頼書を見せるも


「BAR 10Point」。じつはこの店、前を通るたびに気になっていた。19時のオープンと同時に飛び込む。


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われ潜入せり

入ってみると、いわゆる正統派のバーだった。マスターは40代ぐらいで、短めの髪にブルーのシャツ。間違いない、この人がロコちゃんさんの「元彼」だ。

まずは気を落ちつかせようと生ビールを注文。お通しにパイナップルが出てきた。おいしい。


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カクテルメニュー


壁の大画面テレビはクイズ番組を放送している。ビールを半分ぐらい飲んだとき、マスターが話しかけてきた。「このへんにお住まいなんですか?」「あっ、はい、北口ですけど」

 

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フードメニュー

今しかない。意を決してあらかじめ作っておいたA4の取材依頼書を見せた。

「じつはニフティが運営しているインターネットのサイトで(中略)…ということで今日は伺ったんですよ」

マスターは取材依頼書を一瞥しただけで、黙って僕の話を聞いている。テレビでは誰かがおかしな回答をしたようで、わっと盛り上がる音が聞こえた。


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出窓に置かれた色とりどりの酒瓶たち


最後に「もちろん、プライベートなことなので話せる範囲で結構です。なるべくお店の宣伝になるようにもしますので」と言うと、マスターがようやく口を開いた。

「うちはそんなに宣伝するつもりもないんでねえ。でも、この方のことは誰だかわかりました」

あっ、わかりますか。失礼ですけどマスターのお名前は?

「いやあ、それはまあいいじゃないですか。当時のことはとくに言うこともありませんけど、今のお店についてならお話ししますよ」

淡々とした語り口調だが、どうやら気分を害しているわけではなさそうだ。「店の写真はいいが顔などはNG」という条件で取材OKをもらった。

 

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有馬記念のポスター

では、質問させてください。このお店ができたのはいつですか?

「18年前ですね。母がやっていた喫茶店を閉めることになって、そのまま引き継ぐかたちで。内装はがらっと変えましたけど」

店名は馬の名前から?

「そう、テンポイント。好きだったんです。今の若い人は知らないだろうなあ」

僕もうっすらと覚えていただけで、壁のポスターで「もしや」と思ったのだ。お母さんがやられていた喫茶店というのは、どんなお店だったんですか?

「うーん、まあふつうの喫茶店でしたね。当時、僕はデパートで働いていて、店にはほとんど来なかった。母ですか? ええ、まだ元気ですよ」

デパートを辞めてこのバーを出すに至った経緯は「いろいろあったんでね。ひとことでは言えません」とのことだった。

 

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すりガラスの意匠

聞けば、マスターは現在44歳で独身。体は至って健康。そして、20年前、ロコちゃん さんと交際していたのも事実だという。

すみません、大変失礼なことを聞きますが、もしかして、それが気まずいというかイヤな思い出ってわけではないですよね?

「あはは、そんなことはないですよ。ちゃんと彼女でしたから」

それ以降、結婚しようと思ったお相手はいましたか?

「そこまでは言えませんよ(笑)」

それはそうだ。まだ会って15分の初対面の男にそんなデリケートな話をできるわけがない。


ロコちゃんさんをイメージしたカクテルを


突然の奇妙なオファーにもかかわらず、真摯にお付き合いいただいた。ここまで聞いた話で「ロコちゃんさん、マスターは元気でしたよ」とまとめよう。そう思って勘定をしかけた瞬間、ふとあるプランが頭に浮かんだ。

マスター、最後にロコちゃんさんに何かカクテルを作ってもらえないですか?

ここにいない人には作れない。そう言われるかと思ったが、「あはは、カクテルねえ。いいですよ」とあっさり受けてくれた。

ほどなくして、出てきたのがこれだ。

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20年の時を超えて

「コスモポリタン。ウォッカをクランベリージュース、ライムジュース、コアントローでシェイクしたショートカクテルです」

ひとくち飲むと、こっちを見ていなかったはずのマスターが「ちょっと強いでしょう」と言った。ウォッカの刺激とクランベリー、ライムの酸味が複雑に交わっておいしいです。そう答えた。

いつの間にかテレビの電源は落とされ、BGMはビル・エヴァンスの『枯葉』に変わっていた。

 

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カクテルを飲むのなんていつぶりだろう

ちなみに、コスモポリタンとは「世界を駆けめぐる国際人」という意味。生まれてから高円寺を出たことがないと言っていたマスターが作ると、また味わい深い。なぜこれにしたのかは、あえて聞かなかった。

最後に、「店のことは石原さんが客観的に見たり感じたりしたことだけを書いてください。僕はあまり『こういうスタンスでやってます』とは言いたくないので。お酒のことをあれこれ語るのはナルシストっぽくて嫌なんです」と言われた。

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[まとめ]

ロコちゃんさん、いかがでしたか。お二人の間にどんな思い出があるかはわかりませんが、おかげで思わぬ楽しいひとときを過ごすことができました。ありがとう。そして、これを読んだら近所のバーかどこかで、ぜひコスモポリタンを飲んでみて下さい。

なお、後で「見てきた」のほうにも投稿しておくので、そちらも合わせてご高覧を。

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ドリンク500円〜、チャージ300円

<BAR 10Point>
杉並区高円寺南2-20-5
19時〜2時
日祝休


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