さよなら「ららマート」
押忍!
今回のテーマは「ポエムを詠む」。しかし、詠みたい題材が見つからない。ネタを探して高円寺の街をぶらぶら歩いていると、スーパーの前に人だかりができていた。物語はこうして始まった。

なんだなんだ?
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「ららマート」が閉店していた
結論からいうとスーパーが倒産していた。駅からほど近い商店街の中の「ららマート」。深夜まで営業しているので、たまに酒やタバコを買っていた店だ。

休業を告げる貼り紙
人だかりをかき分けて店内を覗き込むと、商品はそのまま。昨日までふつうに営業していたのに、ずいぶん突然だ。

誰にも買われずに朽ちていくグレープフルーツ
「ウソッ! つぶれたの?」「店長が売り上げを持ち逃げしたって聞いたわよ」「今朝も折り込みチラシが入ってのに」。店の前は街の人々の噂話で持ちきりだ。
たいしてヘビーユーザーでもなかったが、毎日のように横目で見ていたスーパーが突然なくなると、意外にも喪失感が大きい。僕はそのままぼんやりと行きつけのカフェに向かった。

こんにちは
コーヒーを飲みながら、ふと目の前の新聞をめくる。「ららマート」の経営母体が自己破産したという記事が出ていた。

負債総額28億円
店の常連に話を振ると、みんな知っていた。それぞれ、恋人とまではいかないが、知り合いを亡くしたぐらいのニュアンスで地元のスーパーについての思い出を語る。中には「かわいいレジの女の子がいたんだよね」という人もいた。
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そうだ、これをポエムにしよう
そのとき、ひらめいた。「これをポエムにしよう」と。さっそく、詩人の象徴としてのベレー帽を近所で購入。これをかぶりながら自分の中の詩魂と向き合う。
5分後、「ららマート」に捧げるポエムは完成した。聞いて下さい。「ららマートよ!」。
ららマートよ!
タバコと酒しか買わなかったけれど
帰り道にいつも見ていたよ
キミが閉店して汚れっちまったこの街では
OKマートが賑わい
東急ストアが活気づき
TESCOが盛況だ
債権としてのグレープフルーツが
しずかに朽ちていく
ポエムを書いたのなんて小学校ぶりではないだろうか。俳句は好きだが、あれには定型がある。フリースタイルは難しい。しかし、同時に亡きスーパーへの思いと距離感を客観視できたような気がした。ちなみに、TESCOとは最近すぐ近くにできた外資系スーパーのこと。
ついでに、カフェにいたお客さんにも書いてもらう。まずはマッサージ師の元さん。ベレー帽のかぶり方がちょっとおかしいが、できあがったポエムは、ふだんのおとぼけキャラクターからは想像もできない真摯な筆致だった。

ららマート
大好きな珈琲を飲みに行く時
通りすぎるお店
店でお客様に提供するお水を買っていたけど、
次はどこで買おう?
高円人の安くて安心できる台所が無くなって、
これからどうするんだろう?
具体的な不安が控えめに表現されている。非常に困った様子がうかがえるが、よくよく聞いてみると「水しか買ったことがない」そうだ。それなら何とかなるのでは。
次に長沢さん(音響技術)。
ララマート
今まで身近にあった物や身近にいた人が、
無くなったりいなくなったりして
初めて人は有りがたみに気付くのだろう?
ララマートが無くなって高円寺の住人が
どれ位ララマートの有りがたみに気付くのだろう?
詩の常套手段、擬人化を上手に駆使している。「気付くのだろう?」のリフレインが効果的だ。「この前、箱に入った900円ぐらいのウニを買ったんだけどちょっと苦すぎた。あれも今となってはいい思い出です」。
続いて、とくちゃん(カメラメーカー)。彼女はなんと数年前に「ららマート」でバイトをしていたという。さぞや、悲嘆に暮れているだろうと思いきや…。
ららまーと
夜中の2時までレジをとおすのがきらいでした。
いつもイライラします。
冬でしたがすごく寒かったです。
帰りにおそうざいをもらえたので
ずいぶんたすかりました。
ありがとうございました。
レジ打ちがいやで3カ月で辞めたそうだ。しかし、バイト経験者ならではの内部事情を交えて綴ってくれた。最後はほぼ私信になっている。
次にその妹、ますみちゃん(フレグランス販売)。
ららマートゥン
高円寺に住んで3カ月。
一度もお買い物しなかった。
一度ひやかしたことならあるんだよ。
こんなことになるんなら
一度ぐらいお買い物すればよかったね。
ごめんねららマート。
らららら〜♪
途中まで後悔の念を切々と綴っているが、ラストは他人事のようになっている。自分でも気付いたのか、微妙な空気をネコのイラストでごまかしている。やはり一度も買い物をしたことがない人に書いてもらうのは無理があった。
カフェの主人、清水さんにも書いてもらった。
ららさん
あのときタケノコがあったなら、
タケノコの水煮があったならっっ!
あたしはTESCOになんか行かなかったんです…。
ごめんね、ららさん。
あたしはただスーラータンがつくりたかっただけなんです。
あ、あと香菜もなかったよ。
同じ客商売だけに厳しい注文だ。時間帯にもよるだろうが、タケノコの水煮と香菜がないスーパーはやはり問題があるかもしれない。
最後に、たーちゃん(学生)。「うーん、難しいなあ」と頭を抱えながら、たっぷり1時間かけて作ってくれたポエムがこれ。
ララ
かつては高円寺一の夜更かし者なララ。
かつては君を買ってる人は仰山いたよ。
週末、何かを求めとぐろを巻くおばちゃんはいなくなるんかい?
君の苦労なんて誰も知らなかった。
奇抜なピンクのSOSをくれよ、ララ。
若者はピンクに弱いのさ。
でも、今日のあぶれた君は老若男女のアイドルさ。
おお、リアル詩人がここにいた。写真もカルチェラタン風だ。「とぐろを巻く」はセール品に群がるおばちゃん、ピンクのSOSとは「ららマート」がピンサロ街を曲がったところにあるから、とのこと。締めの一文は志半ばに倒れたスーパーへのエールとも読める。
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ポエムを貼りに行く
かくして、1冊のポエム集が完成した。「ららマート」が生きていたら、いやその前に人間だったら、このポエム集を読んでほしかった。

非売品
そうした思いを少しでも実現させるべく、ポエム集を抱えて目と鼻の先にある「ららマート」に向かった。そして、人がいなくなった隙を見つけて入り口に貼ってみた。
借金の取り立てのようになってしまった
こうして、地元のスーパー閉店をめぐるポエムの旅は終わった。「ららマート」よ、ありがとう。そして、さよなら。
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[まとめ]
やはりポエムは、自分の心を動かすものごとに対して真摯に向き合ったときに初めてできるということがわかった。そういう意味では「ららマート」は格好の題材だったように思う。彼(彼女?)のいない生活はすでに始まっている。残されたポエムたちとともにーー。
賑わう東急ストア
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